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    2010 JAXA相模原キャンパス特別公開 その6~カプセル回収裏話

    by ゆげ2号

     前回に引き続き、イカロスの模型など展示を見ていたのですが、そこらへんは次回にまとめてするとして。ゆげ2号における、JAXA特別公開の2大イベントの、ふたつめの話をしようと思います(ひとつめは、もちろん川口氏の宇宙セミナーですとも)。

     次の会場へと進む途中、屋外のパネルの前に、妙に人だかりができていたのが目に付きました。二人の解説員の方、がカプセル回収時の話をされているようです。これが、漫才の掛け合いのように、やたらとおもしろい。JAXAには話のうまい人が多いんだなあと思いつつ、聞いていると…

    該当者氏「あれ、曽根さんですよ、充電池のバイパスを考えた人。あと、カプセルの回収でウーメラ砂漠までいった人ですよ。」
    ゆげ2号「えっ?『こんなこともあろうかと!』の人?」
    該当者氏「いや、それは國中さん。曽根さんは、軍医の佐渡酒造で…」
    ゆげ2号「なんでわかったの?顔とか覚えてるの?」
    該当者氏「いやあ、ネームプレートが見えなかったんで確信がなかったんですが、話の内容を聞いていて確信しました(ニヤリ)。」
    ゆげ2号「…(『知っていたのか、月光ー?!』と叫びたかったが、自粛)」

     <注:ここら辺の会話は、下記の動画が元ネタになっています。宇宙戦艦ヤマトを知らなくても、概要はなんとなくわかる…かな?
    探査機はやぶさにおける、日本技術者の変態力
    http://www.youtube.com/watch?v=6kZbeAK-vBE >

     6月14日、はやぶさが持ち帰ってきたカプセルが、オーストラリアのウーメラ砂漠に投下され、回収されたことはニュースでも取り上げられてご存知の方も多いでしょう。しかし、特別公開時のこの日、実際にカプセルを回収に行ったご本人から直接、その裏話が聞けるなんて!しかも、こちらからの質問にも答えてもらえるんですよ!なんという贅沢な時間であったことかっ…!

     以下、思い出せる限り書いていきます。

     ○オーストラリアとの交渉

     はやぶさのカプセルは、あらかじめどこに落とすかを考えて、はやぶさの軌道を修正し、カプセルを投下するプロセスに入るわけです。しかし、当初はアメリカの土地に落とさせてもらう予定が、諸事情でオーストラリアに落とさざるを得ず、「カプセルを落とさせてもらって、回収させてください」という交渉を、それぞれの国のお偉いさん同士で、してもらうことになったそう。これがまた難物だったようで…。

     「カプセルは書類の手続き上、一度オーストラリアが日本から輸入したことになります。カプセルを日本に持ち帰るとなると、さらに、オーストラリアから日本に輸出することになるんですね」

     カプセルは日本から、小惑星イトカワ経由で、7年かけてオーストラリアへ輸出されたことになるわけですね。空からズドーンと(笑)。

     「で、オーストラリアという国は農業の国で、輸入する物に対してすごく厳しいんです。検疫が恐ろしく厳しい。食べ物は持ち込めないし、靴なんかも念入りに洗浄しないといけない。」

     外来の植物や生物が入ってこないように、ってことなんでしょうね。オーストラリアは、世界一検疫が厳しいんじゃないかって聞いたことがあります。

     「それなのに、3億kmの彼方から異物が入ってくるとなるとね、そりゃあもう大変なわけですよ。本当に安全なのかとか、カプセルが壊れて、変なものが出てこないかとか。『宇宙人は入っていないだろうな』って話も出たようですね(笑)。まあ、オーストラリアにとっては何の得もないし、迷惑でしかない話ですからね。」

     宇宙人は入っていない、ってどうやって証明したんでしょう。ノックしてみるとか?

     「カプセルを回収するときも、壊れていないかを調べて、安全化処理をしてからやっと回収となります。小惑星イトカワは基準としてはレベル4なので、これぐらいなのですが、これが火星になるとレベル5なのでもっと厳密になります。」

     火星人、とまでは行かなくても、未知の原始的な生物が紛れ込む可能性もあるということでしょうか。しかし、あのカプセル回収の裏側で、こんな折衝が行われていたとは。

     ○軌道修正の話

     はやぶさを地球の方へ向けて、カプセルを投下させるため、少しずつ進行方向を変えて軌道修正(TCM: Trajectory Correction Maneuver )を行うのですが、はやぶさはもうボロボロで限界が近かったため、5回のフェーズ(TCM0~TCM4)に分けて少しずつ行うことになっていました。これがまた大変だったそうで…。

     「とにかく、はやぶさの何もかもがギリギリの状態だったので、最後の最後、不調だったエンジンがこちらの指示通りに動いてくれたときは、本当にホッとしました。はやぶさに指示を出している後ろでは、オーストラリア側の責任者がその様子を見ていて、『オーストラリアにカプセルを落としてよい』という最終許可をくれたんですが、もし『これは危険だから、やっぱりダメだ』となれば、オーストラリアには落とせないので、はやぶさを宇宙の彼方に飛ばしてやらなければいけなくなるところでした(笑)。」

     そんなギリギリの所にまでプレッシャーが!危うく、日本の宝が、宇宙の彼方にポイッとされるところだったとは!

     「(パネルの図を指し示しながら)カプセルを落下させる地点は、風向きなどを考えて誤差も含めて、この図の中の150km×30kmの楕円の中になると予想していました。さらに、計算上はこの地点に落ちるというのがこの点で、実際に落ちたのがこちらだったので、その誤差は350mしかなく、かなり予想通りの結果となりました(観衆からオオーッとどよめき)。」

     150km×30kmの楕円の中とは予想できても、広大な砂漠の中ですから、NASAや豪州空軍の協力も得て、あらゆる方法を使ってカプセルの行方を追うことになっていたんですよね。それが、350mの誤差とは。そういえば、川口氏がセミナーの中で「カプセルの捜索にもっと時間がかかっていれば、自分も現地に行く予定だったのに」って言ってたなあ。

     「ただ、途中で『このままだと予定よりズレて、シドニーの方に落ちるかも』というときがあり、川口氏が『ごめん、シドニー』と言ったとか(笑)。まあ、シドニーの真上に落ちるというわけではなく、近いところに落ちるかも、くらいの意味合いだったのですが」

    ○カプセル回収の話

     「カプセルが、無事に研究所まで届けられるかが、すごいプレッシャーでした。色々なトラブルをくぐりぬけてここまできて、回収で失敗はできないですからね。税関を通ったあとも、飛行機が落ちないようにとか、日本についてからも、カプセルを輸送しているトラックが事故にあったらとか、最後まで心配でしたね。」
     

     さて、ここらへんからは、なんとなく質問コーナーになりました。

    ○質問:輸出・輸入の話が出たけれど、カプセルは税関を通ったのですか?「中身をあけて見せろ」とはならなかったのでしょうか(笑)。

     回答:税関は通りました。しかし、あらかじめ書類で話を通しておいたので、中身は空けずに済んでいます(笑)。関税の関係でカプセルに値段をつけなければならなかったのですが、確か0円…いや、1円ってつけたんじゃなかったかな。

    ○質問:わざわざ外国に落とさなくても、日本に落とすとか、海に落とすとかではいけなかったのですか?

     回答:150km×30kmの地域に落ちると計算しているわけですが、色々な要因でズレることもあるので、北海道くらいだと人のいるところに落ちる心配があり、やっぱりオーストラリアやアメリカくらい、無人の広大な土地があるところじゃないと難しい。それから海は…、実は電波は水中を通らないんですね。その昔、私がここに来た新人のころに聞かされたのが、サンプルが海中に落ちて回収不可能になったケースで(笑)。ブイに引っかかって水面に浮かんでいるのを回収する予定が、サンプルが海中に沈んでいってしまったという。だから、やっぱり確実に回収するには陸地の方がいいんですね。

    ○質問:カプセルを切り離す際、まっすぐに押し出すのは難しいように思うのですが、どのようにしていたのでしょうか?

     回答:カプセルの形状自体、風を受けたときに軸が安定するように作ってあるのですが、その安定するまでの10秒間ほどの間は軸がブレてしまう可能性がありました。それで、カプセルを切り離す際、カプセルにスピンをかけて安定させるようにしてありました。これはNECの特許なんです。

    <NECの名前が出てきたので、ついでにNEC側から見たはやぶさの話にリンクを張っておきます。
    http://www.nec.co.jp/ad/hayabusa/story/01/

     実に気さくに、回答してくださる曽根氏。ここは私も何か質問してみなくては!稚拙でも、イタくてもいい、参加することに意味があるのだ!

    ○ゆげ2号からの質問:カプセル回収の様子をTVで見ていたときに、「現地の人がカプセルを拾っちゃって、『1割よこせ』とかならないのかなー」とか冗談っぽく思っていたのですが、実際、150km×30kmの広大な地域に関係者以外を立ち入らせないために、事前にどのような準備をしていたのですか?やはり付近の道路を通行止めにしたりしたのでしょうか?

     回答:道路といっても何本もないのですが、通行止めにしてもらっていました。それから、無人の砂漠とはいえ2、3件は家があって住民がいるので、万一のことを考えて避難してもらっていました。それでも、関係者以外の人が入る可能性が0ではなくて<ここで聴衆から「カンガルーとか」という声が上がり、ネタを知っている人から笑いが起こる。元ネタはこのブログの最後で>、まあ、カンガルーとか人が持っていってしまう可能性もあるのですが、それは人の良心を信じるということで…。

     回収ですごいプレッシャーを感じていたと聞いたあとなのに、こんな質問をぶつけてしまってちょっと申し訳ない気持ちになりました。でも、答えてもらえてすごくうれしかったですよ~。

     ほかにも面白い話がたくさんあったように思うのですが、聴衆の後ろの方で聞いていたので、きちんと聞こえてなかったり、知識が足りなくて頭に入ってこなかったりで…いやーもったいない。今、書きながら、もっとあったような気がするのですが…。えーと、ヒートシールドは輸出できないとかいう話が…輸出制限?…軍事転用可能だからって理由だったっけ?などとパソコンの前で書きあぐねていると、横からゆげ1号が、

     ゆげ1号「そりゃそうだろう。だって、ヒートシールドがあれば大気圏突入できちゃうんだろ?そんなのあったら、ガンダムだって作れちゃうよ」
     ゆげ2号「ガンダム?ああ、大気圏に突入する話があったねぇ。ヒートシールドの技術であのシート状のを作れば、ガンダム単体で大気圏突入できる、と。んじゃ、はやぶさのカプセルはガンダムか?」
     ゆげ1号「ということは、はやぶさ本体はザク?大気圏で燃え尽きちゃうから。」
     ゆげ2号「ジャ、JAXAーッ!」

     あ、これは元ネタあったっけ。
    <ボーガスニュース
    http://bogusne.ws/article/153183357.html> 

     締めがこんなネタですみません。次号、再び展示の話。

    つづく

    カプセル回収の話。曽根さん、熱いっス!
    No.022 出立前のメッセージ 電池屋~方探班の一隊員として~ 曽根 理嗣
    http://hayabusa.jaxa.jp/message/message_022.html

    カンガルーのネタはこちらに。
    No.030 出立 電池屋~方探班の一隊員として~ 曽根 理嗣
    http://hayabusa.jaxa.jp/message/message_030.html

    No.042 ~道~ 電池屋~方探班の一隊員として~ 曽根 理嗣
    http://hayabusa.jaxa.jp/message/message_041.html


    該当者氏、教えてくれてありがとう!


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    Posted by ゆげ1号 on  | 4 comments  0 trackback

    4 Comments

    該当者 says...""
    ○川口教授の安堵の顔
    TCM2から3の軌道修正のとき既存の突入どうしてもシドニー(近郊)を掠める軌道になってしまう期間があってそのときエンジンの不調とかコントロールができない状態になるとシドニー(近郊)に落ちてしまうと。なのでTCM3が終わったときに川口教授が本当に安堵した顔をしたのはシドニー(近郊)に落ちなくなったといった背景もあったとのことだったと思います。


    ○宇宙の彼方にポイッと
    実際、「のぞみ」は機器のコントロールが回復できなくて火星圏に到達しましたが、火星周回軌道に乗せることができなくなって”ポイッ”とされてしまいました。
    このとき川口教授は本当に(いや、まじで・かなり)悔しい思いをしたようです。
    そこな辺は「恐るべき旅路」に書いてあります。
    なので川口教授が帰還にこだわったのもこういった背景もあったりします。


    ○検疫のレベル?
    確かレベル4ではなくレベル3ではなかったでしょうか?
    うる覚えではあるのですが。。。大気も存在しないのであまり高くなかったような気が。。。


    ○海じゃなくて陸
    水没しちゃったのは"HYFLEX"ですね。


    ○カプセルが落とせる場所&もろもろそろうと。。。
    たしかカプセル(というかヒートシールド)が落とせるところは広い土地というだけでなく実は政情的なところも絡んでいると。
    で、大体の人が気づいていると思う(どっかの糸川博士を追い落とした馬鹿な新聞社も気づいているかはわかりませんが)のですが、ヒートシールド、M-V、精密誘導技術ともう一つあると。。。ね、生臭い話になっていくわけで。。。
    写真を取らせないのはそれなりの理由があるということですね。


    ○曽根さん話
    ちょろっとメールしましたが、9月11日(土)に講演会があります。
    http://www.city.hachioji.tokyo.jp/kyoiku/gakushu/sciencedome/5694/022504.html
    残りが60名程度ということですからすでに200名近くの方が申し込みをされているようです。
    2010.08.17 00:16 | URL | #195Lvy4Y [edit]
    ゆげ1号 says..."すげーよサンライズ新聞"
    それにしても、糸川氏と銀座のママを取り合った恨みでネガティブキャンペーンを繰り広げて、ついには追い落としてしまうってのもすげーよな。

    糸川氏の頃から、ロケットは政治問題(国内・国際問わず)に付きまとわれる運命なんだな。
    2010.08.17 23:33 | URL | #- [edit]
    該当者 says..."もろもろ追記"
    ○ヒートシールド
    ヒートシールドは溶けて蒸発してカプセルを熱から守る構造になっていると思いますが、実際リエントリーしたヒートシールドは想定通りの溶け具合だったという話もあったかと思います。
    また実験では確か小さいモデルでプラズマを発生させて溶かしたというような話もあった気も。。。で、最終的にはアメリカのJPLで実物大模型?で性能の確認したということだったような記憶があります。

    ○やっぱりすごい悔しかったみたいです。
    マイコミに15日にあった「「JAXA i サマーウィーク」での川口教授、吉川准教授、坂本教授の講演内容が載っていますが、やっぱり"のぞみ"の件はかなり悔しかったようです。
    http://journal.mycom.co.jp/articles/2010/08/17/hayabusa_talk/index.html

    ○サンライズ新聞の蛮行
    については、今となってはどんな側面(記者の科学技術への謙虚な姿勢があったのか、記者の良心が奈辺にあったのか、新聞社としてどのような検証を行った上で紙面に載せたのかとか)で考えても話すに値しないような蛮行だったと思います。
    ただ当時のことをよくも知らないのでかなり無責任な言いようだと思いますが、あれだけの巨星が急にいなくなっても世界に類を見ない惑星探査などができたのはそれまでにきちんと育てきったということでしょうし、ある意味巨星がパッといなくなったことで残されていた人たちがよりフレッシュな発想で花開いたという側面もあるのかな?とも思います。
    でもやっぱり糸川教授がそのまま宇宙研に残っていたら日本の宇宙開発はどのような発展をしていたのかと考えてしまうこともあります。
    2010.08.18 01:59 | URL | #195Lvy4Y [edit]
    ゆげ1号 says..."とりあえず続きは"
    野辺山行ってから書きます(笑)
    当日の状況見合いだけど、こちらが足を引っ張らない範囲で一緒に回れたらいいですね。
    2010.08.19 23:42 | URL | #- [edit]

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