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    2010 JAXA相模原キャンパス特別公開 その4 ~川口氏のセミナー後編

    by  ゆげ2号
    前回の続きです。

    ○ターゲットマーカーについて
     はやぶさがイトカワに着陸する際の目印にするため、先んじてイトカワに放出されたのがターゲットマーカー。この中にははやぶさを応援する88万人の署名が入っています。しかし…

    川口氏「このターゲットマーカー、半永久的にイトカワ表面に残るってされてますよね?半永久っていうと、ずーっとって感じがしますが、実はそんなことはなくて、こういった小惑星はいずれ、金星か地球の引力に引かれて追突する運命にあるんですね。だから、半永久といっても、せいぜい1億年くらいのものです。まあ、われわれが生きているうちは大丈夫ですけど」

     夢があるんだか、ないんだか(笑)…。

     ○はやぶさからの通信が途絶えたときのこと
     はやぶさを見舞った数々のトラブルの中でも、最大のピンチはやはりこれではないでしょうか。なにせ1ヶ月半も通信が途絶えていたのですから。

     けれど、川口氏は、前の「はやぶさの設計の話」の項で書いたとおり、「そのシンプルな構造ゆえ、いつかはアンテナを軸に姿勢が固まって太陽で充電できるようになるだろうとの予測」をしていました。いつかは通信できるようになるはずだ、と。

     ただ、再び地球側で制御できるようにするためには、5つほどの命令を、順にはやぶさに伝えねばなりません。しかし、はやぶさは回転し続けて、かつ指向性アンテナに切り替わっていたので、一定の方向からの電波しか受信できない状態であると考えられ、長い命令でははやぶさが捉え切れないと推測されました。

     そこで、プログラムを書き直し、ほんの数十秒でもはやぶさのアンテナがこちらを向いていれば、受信できる長さにしました。また、考えられる限りの命令を総当りで送信するようにしたそうです。そして、川口氏は、いつかは通信できる自信はあったものの、その期間については最短で三ヶ月、長ければ一年くらいかかると予想していました。

     「時間をかければ、必ずはやぶさと再び通信ができる」と、自信があった川口氏ではありましたが、そこに大きな壁が立ちはだかりました。はやぶさのプロジェクトを、壊滅に追いやる大きな危機!それは…

     年度終わり(笑)。

     年度の終わりが予算の切れ目。何週間もはやぶさとの通信が途絶えた状態ですし、このプロジェクトにはJAXA以外にもNECなど、たくさんの関係者が関わっており、続けるにあたってはお金がかかるわけです。上の人に「やめちゃえば?」と言われれば予算がなくなるのです。

     そこで、川口氏は、はやぶさと再び通信できる確率を計算しました。それは6、7割ほどの確率でした。川口氏は上にそれを報告し、上からは「そういうことなら、続ければいいんじゃない?」との許可をもらい、プロジェクトを続けることが出来たそうです。

     川口氏「まあでも、実際は命令がすべて通る必要があるので、確率はもっと低くなるんですけどねー。まあ、上にはそれは言わないでおいて…」

     おいおい!…ああ、なんかこの人が、異常に話が上手なわけがわかってきたぞ。予算をもらったり、プロジェクトの計画を通すために、上の人を騙くらかしたりしなきゃいけないからだー!馬鹿正直じゃ勤まらないんだー!

     ○はやぶさからの通信を待つ1ヵ月半の話
     はやぶさからの再通信には自信のあった川口氏。しかし、それを待つ期間はやはり、しんどいことがいっぱいあったそうです。

     まず、運用者が日に日に減っていくこと。「しばらく僕の担当の仕事はないですよね。再通信できたらまた呼んでください」てな感じで人が減っていくそうです。外部から派遣されている人たちですから、仕方のないことなのでしょうが…。

     加えて、人が減るにつれて士気が下がること。現場が寂しくなればあきらめムードも漂いますよね。やはりそれが一番つらかったそうです。

     そこで、川口氏がしたことのひとつは、毎朝ポットのお湯を入れ替えたこと。ポットから出るお湯が冷めていれば、「ここはあまり活動していないな」という印象を与えてしまうため、毎朝ポットのお湯を入れ替えておくことで、「ちゃんと運用してますよ。あきらめてませんよ」とのアピールをしたそうです。そして、ほかに川口氏がしたこと、それは…。

     神頼み(笑)。

     近所の神社はもちろん、関係ありそうな神社は地方まで、足を伸ばしてお参りしたそうです。JAXAとして行くわけにはいかないので、あくまで個人的に。「飛不動」「隼神社」「飛行神社」「電波神社」(…そんなのあるんだ…)。

     思いつくところはすべて行ったあと、川口氏が「中和に関係したところなんてないよなあ(イオンエンジンに中和器という部品がある)。」とつぶやくと、チームメンバーがすばやくネット検索、「中和神社あります~」(笑)。中和神社の宮司さんは、はやぶさのことをご存知で、説明する手間が省けたそうです。

     科学者として、神頼みはどうなんだとも考えたそうですが、逆に「神頼みの前に、自分はするべきことを全部しているか」と問い直す機会にもなったそうです。川口氏の「運をコントロールすることは出来ないが、運を拾うのは努力」という言葉が印象的でした。
    神頼み 
    <資料:該当者氏より>

     ○はやぶさの帰路の話
     それでなくても劣化が進み、限界の近かったイオンエンジン。太陽の熱でダメになるのを避けるため、日射を避けるよう姿勢制御したそうです。とはいえ、すでに満身創痍のはやぶさ、ロケットエンジンなら30秒でできる姿勢制御に何百時間もかかったとか。 

     ○はやぶさが最後に撮った地球の写真
     有名な写真なので、ご覧になった方も多いのではないかと思います。
     一応リンクを→ラストチャンスの地球撮像http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2010/0618_3.shtml

     この写真を撮ることはプロジェクトには含まれていなかったそうです。しかし、最後のミッションであるカプセルの分離を完了したあと、はやぶさに写真を撮らせることに異論を唱えるメンバーはなく、完全にボランティアで運用に当たったそうです。最後にふるさとを見せたかった…と。

     下のほうでデータが途切れているんですよね。その時点で、はやぶさがデータを送れない状態になったということでしょう。 わたしには、ここではやぶさが静かに目を閉じたんだなと思えました。

     ここからは質問コーナー。時間をオーバーしながらも答えてくださってました。

     ○はやぶさ後継機に盛り込みたい機能
     小惑星表面に人工的なクレーターを作れるようにしたいとのこと。表面は温度変化や放射線などで風化しているため、内部のサンプルをとれるようにしたいそうです。

     それから、宇宙に係留して再利用できるようにすること。

     ○なぜイトカワまで行ってサンプルを取らなければならなかったのか
     地球の内部や、隕石は熱で溶けて物質が混ざり合ってしまっているため、太古の宇宙ではどんな状態だったかわからないそうです。なので、そのような影響を受けていない小惑星に行く必要があったと。

     ○はやぶさの帰路、持ちこたえられる自信はあったか
     自信はあったが、航行中に水分でクラック(ひび)ができないかどうかは心配したそうです。温度変化をやわらげてくれる空気のない宇宙では、太陽の当たっている面と日陰の面では温度変化が激しく、氷がつくのはふせげないとのこと。また、このことによる影響は宇宙に出なければわからないことで、実験も出来ないそうです。

     ○ミネルバさんについて一言
     川口氏、苦笑(ちゃんと答えてくれてましたが)。いまでもイトカワのそばをまわっているだろうし、そばを通ることがあれば、運がよければ回収できるだろうと。

     この辺で質問タイムも終了。セミナーの終了が伝えられると、会場からは割れんばかりの拍手が起こりました。本当におもしろくてエキサイティングな時間でした!あとのツッコミや補足は該当者氏にまかせた!

     次回、さくっとお昼を食べて、展示を見に行った話。またこれがおもしろいかったんですよ。では。

    つづく 

    おまけ:川口氏が、はやぶさの帰還に際して寄せたメッセージを紹介します(該当者氏、教えてくれてありがとう!)。

    「はやぶさ」、そうまでして君は。
    http://hayabusa.jaxa.jp/message/message_001.html

    ほかのメッセージもすごく良いので、どうぞ!

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    Posted by ゆげ1号 on  | 4 comments  0 trackback

    4 Comments

    該当者 says..."補足?なんでしょうか。。。"
    ・年度終わりを聞いて
    この話を聞いて糸川教授の話を思い出しました。もっとも糸川教授はもっと大きな話をぶち上げて役人をある意味”だまくらかして”頭を下げつつ予算を取ってきたという話があります。その辺は先日お貸しした「昭和のロケット屋さん」にいろんなエピソードが書いてあります。
    ちなみに今回のセミナーには糸川教授の曾孫?さんもこられていたそうです。ある意味工学系衛星としてのMUSESシリーズとそのためのMロケットの組み合わせの最終機となってしまった”はやぶさ”の目的地がイトカワで、そのPJの完了報告のセミナーに糸川教授のご親族がこられていたというところになんか奇妙な縁と古き良き宇宙研の終わりを感じてしまいました。
    (はやぶさ2を巡るごたごたやH2系生い立ちのことを考えるとちょっとそう思ってしまうんですよね。。。)


    ・ポットのお湯
    本当に地味ですが重要なことだと思いました。こういうところをちゃんと気づけるところが人をまとめてはやぶさプロジェクトを成功に導いた大きな要因の1つだったのではと思います。


    ・ラストショット
    川口教授もぶっちゃげ「補正した写真よりそのままの写真の方がスミアのところこがはやぶさの涙みたい」ということでダウンロード数は圧倒的にオリジナルの写真の方が多いとのことでしたが、折角なので補正後の写真も。
    http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2010/0618_2.shtml
    本当ははやぶさには出発地である内之浦を見せたかったそうですが、カプセル分離を遅らせたため内之浦を見せることをできなかったとのことでした。


    ・関係者のメッセージ
    曽根さんの熱いメッセージもすごい好きなんですが、技術者としては
    「No.029 どうやって地球に帰ろうか...(後編)」
    が一番印象に残っています。
    勝手に引用してしまいますが、
    ------------------------------------------------------------------
    o 物理現象に対する原理的な/素朴な理解(理論や法則の前提や適用限界に注意を払う)
    o 先入観に囚われずに、丁寧にデータを拾うこと
    ------------------------------------------------------------------
    本当にその通りと思いますし、
    ------------------------------------------------------------------
    今から20~30年前に、組織としても個人としても初めての事ばかり、という環境の中で、自分の手を動かして様々な手法について比較検討し、丁寧に概念設計の段階から運用ソフトを開発してきた経験が、救出運用に繋がっている。そこにこめられた「はやぶさ」からのメッセージは、開発効率や新規性ばかりにとらわれていると、研究者や技術者の底力は育たないよ。ということかもしれません。
    ------------------------------------------------------------------
    といったところは今のうちの会社・グループに足りないことだよな~と思ったりしています。
    ちなみにこの白川さんが今度の”ロケットまつり”にきます。Web予約は終了してしまいましたが、当日券は若干出るようです。
    ロケットまつり39
    「はやぶさまつり~帰還までの道のり」
    http://www.loft-prj.co.jp/PLUSONE/schedule/lpo.cgi


    そうそう、オアゾの展示スケジュールが決まりましたね。
    http://www.jspec.jaxa.jp/hayabusa_event/
    ヒートシールドは15日(日)、16日(月)だけの展示となっています。また相模原と違い整理券が配られるとのこと。配布開始が7:00で、展示は8:00~20:00となっています。
    15日はトークイベントもあります。イオンエンジンの話や運用室の話など無茶苦茶行きたいですが、その日まで帰省しているので参加できないです。(;-;)/

    それでは、この辺で。
    2010.08.07 23:21 | URL | #195Lvy4Y [edit]
    ゆげ2号 says..."遅ればせながら…"
    コメントありがとうございます。

    >古き良き宇宙研の終わりを感じてしまいました。
     そうですねー。世代交代というのでしょうか。でも、糸川教授のDNAはきちんと受け継がれているようにも感じたんですよね。川口氏のしたたかさとか、曽根氏の熱さとか。これからまたたいへんなのでしょうが、がんばっていただきたいです。

    >・関係者のメッセージ
     まとまった時間はなかなかとれないのですが、全部読んでやるぞーと思っています。 ロケット祭り…ブログに乗せられないくらいやばいですね(笑)。本を読了したのですが、実名バリバリでびっくりしました。いいのかー?いやしかし、これだけインターネットが発達して、情報社会とか言われても、やはり足を運ばないと聞けない話ってあるものですね。

    >オアゾ
     行きたい…。だめもとで行こうかどうしようか、迷ってます。整理券さえもらっちゃえばなんとかなりそうなのですが、外で並ばなければいけないのがきつそう…。
    2010.08.15 20:10 | URL | #PtTZI1rk [edit]
    該当者 says..."追跡! AtoZ"
    28日の追跡! AtoZで「はやぶさ」プロジェクトをやってましたが、ラストショット前のNG写真も出ていました。それを見た後にラストショットを見ると白川さんたちの努力の賜物だとは思いますがあの写真が本当に奇跡のように感じてしまいます。(;-;)/

    で、確か、今日の夜に再放送がありますね。ハイビジョンだったかな?
    熱中夜話の川口教授がでた回も同じ流れで再放送されたはずです。
    2010.08.31 21:46 | URL | #195Lvy4Y [edit]
    ゆげ2号 says..."Re: 追跡! AtoZ"
    大丈夫!どっちもチェックしてましたー!ふっふっふ。

    > ラストショット前のNG写真

     NG写真は初めてみたので、ラストショットは本当にギリギリのタイミングでやっと撮れたものなんだなーと、改めて感動してしまいました。番組のつくりが丁寧でよかったですね。さすがに年度末の話は出てこなかったですが(笑)。

     一方、熱中夜話がぬるくって、同じNHKなのに温度差にびっくりしました。はじめ、「川口氏をよんでるなら、もっと訊く事あるだろーっ」と、思っていたのですが、ファンの集いだと思えばそれもよし、と。手作りの実物大はやぶさがすごかったですね。

     そういえば、読売新聞の夕刊にイオンエンジンの話が載ってました。『国中さんの研究室の入り口には、「仮面ライダーカブト」のフィギュアが飾られている。』とあったんですけど、JAXAの特別公開のとき、ありましたっけ?なんでも『カブトの愛車のエンジンは、「マイクロ波放電式イオンエンジン」』だからだとか(笑)。
    2010.09.03 01:21 | URL | #- [edit]

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