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    2010 JAXA相模原キャンパス特別公開 その3 ~川口氏のセミナー前編

    by ゆげ2号

     さてさて、ようやっと川口淳一郎氏(はやぶさプロジェクトチーム プロジェクトマネージャ)の宇宙科学セミナー「帰ってきた『はやぶさ』そして産声」です。その1でざっとはやぶさについては説明したのですが、もう少し詳しく知りたい人のために、私がわかりやすいと思った資料をあげておきます。

     はやぶさ君の冒険日誌
    http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/hayabusa/fun/adv/index.shtml

    <当日配布されていた小冊子と同じものです。小学生用ですが、ことのはじまりからはやぶさの帰還まで網羅されているし、専門用語には解説がついているので、わかりやすくおもしろかったです。PDFのダウンロードもできるのでプリントアウトしてもいいかも>

     天文台マダム様の3分でわかる!「はやぶさ」ストーリー(動画も含めて12分)
    http://madam.atmark.gr.jp/hayabusa2010.htm
    <もっと早く知っていれば…。短く、わかりやすく、解説されているものが見つからなくて困っていたので。やっぱり、天文台マダム様の文章、熱くておもしろい!おすすめです。>

     それでは、セミナーについて。会場の地下大会議室に入れるのは整理券を持った200人と職員のみ(消防法の関係だそうで)。ただ、廊下にTVがつなげてありまして、そちらでも見られるようになっていました。

     いよいよ始まったセミナーですが、一時間半という長さにも関わらず、だれることなく進行してました。とにかくおもしろい!プレス(報道)発表もされていない話もあり、まじめな話の合間にユーモアあふれるネタがさしはさまれたり、プロジェクトマネージャって話が上手じゃないと勤まらないのかってくらいのそつのなさ!覚書として、記憶とメモに残っている限り、どかーっと書いていきますよ~(あ、あくまでゆげ2号のフィルターがかかってますので、正確性は保障しかねます。嘘は書いていないつもりですけど、すみません)。

     ○小惑星探査機はやぶさの目的は『工学技術実証』である
     はやぶさが持ち帰ったカプセルの中身が話題で、私自身、イトカワから標本を持ち帰るのが目的だとばかり思っていました。はやぶさの目的は主に以下の4つだそうです(ミニミニ事典より引用)。

     1.化学エンジンと比べて非常に燃費がよいイオンエンジンを用いて惑星間空間を航行し往復する技術
     2.カメラやセンサーを用いて探査機が自分で判断しながら小惑星に接近、着陸する技術
     3.重力が非常に小さな天体から表面の砂やちりなどのサンプルを採取する技術
     4.サンプルが入ったカプセルを惑星間軌道から地球の大気圏に直接再突入させ、回収する技術

     これらは世界的に見ても例のない試みで、できるかどうかわからないものばかり。これらの技術が理論上だけでなく、実際に使えるのかどうかを調べるのが『工学技術実証』ということ。だから、例えカプセルの中身がからだとしても、はやぶさはすでに「大成功」なんだそうです。

     ○イオンエンジンと電気
     イオンエンジンは非常に燃費がいいのですが、電力を使うというのがネックだったそうです(観測機器が使う分がなくなると困るという意味だと思うのですが)。はやぶさは太陽電池を積んでいますが、バッテリーをたくさん積むと重くなるので、そんなには積めない。

    川口氏「でもねー、移動中は観測機器は使わないので電力が余るんですよ。で、イトカワに着いたら観測機器は使うけど、イオンエンジン使わないでしょ。それに気づいたんですよねー」

     えーっ?!そんな「気ーづいちゃった、気ーづいちゃった、わーいわい(古い)」てな話なんですかー?いや、そう結論付けるためにいっぱい試算してるんでしょうが…。

     ○目指すべき小惑星を決めるまで
     小惑星って数十万個もあるのですが、「近いからあれにしよっかー。そーれ出発!」ってわけにはいかないそうです。探査するだけの価値があってかつ探査可能な小惑星は10個くらいしかなく、その上会える時期(邂逅周期って言ってたと思う)が決まっているんだそうで、その邂逅周期を逃すと次が3年後くらいになるんだそうです。タイミングが難しいんですね。

     で、はやぶさが出発するよりも前の話、JAXAはNASAと共同でお仕事をしていたんだけれども、やっぱりおいしいところはNASAが持ってちゃって、忸怩たる思いをすることも多かったようです。で、これはNASAがやらないことをやらねば!というので、小惑星探査の計画が動き出したとか。「勢いあまって言っちゃったけど…。てへ☆」な感じだったらしいです、当初。

     でも、なんやかやで条件がベストの小惑星の邂逅時期は逃してしまい、「後3年待つか…。いやいや、そんな悠長なことをしてたらNASAに先を越されるかもしれない。NASAならそんな小さな探査機ぐらい、ちょちょいのちょーいで作っちゃうだろうし…。それにずっと協力体制が保てるかわからないし…」というので、第一希望じゃないけど小惑星イトカワ(当時はまだこの名前ではありませんでしたが)にしたんだそうです。なんか泣けてくる話です。

     それにしても、きっかけになった研究会が1985年の6月というのですから、どれだけの情熱であったことか。ちなみに当時の研究会資料の表紙のイラスト、小惑星の脇に宇宙飛行士がいました(笑)。

     ○隼(はやぶさ)
     ここはちょっと小ネタを。

    川口氏「隼の漢字の形って、よく見るとそのまんま、はやぶさの形なんですよねー。右に出てるこの四本がイオンエンジンで、上にちょんってついてるのがアンテナで、左右に張り出してるのが太陽電池!」

     お茶目な人だ…。

     ○イオンエンジンの推進力
     燃費がいいのが売りのイオンエンジン。しかし、その力はほんのわずかで20ミリニュートンほどだそうです。わかりやすくいうと1円玉1、2枚ほど。だから、重力圏を脱出するにはとても使えない(笑)。しかし、化学エンジン(ロケットエンジン)はパワーはあるけど燃料を食うので、重すぎてとても使い物にならない。必要な推進剤(燃料)の重量を比べると、イオンエンジンは10分の1程度で済むそうです。

     あと、これはセミナーのあとで展示を見て回っているときに聞いたのですが、イオンエンジンによる加速は、はじめはほんのわずかだけれど、最終的な速度はマッハ7にまで達するそうです。宇宙は空気抵抗ないですから。

     ○未来展望
     探査機などを完全再利用の宇宙航路を築く…みたいな話でした。「係留できる場所を作って、修理したり燃料を補充する」、「ラグランジュポイント」とか話されていたと思うのですが、私自身が未消化なので省略。それにしても「ラグランジュポイント」って響きがかっこいい…。何気に使ってみたいですね。「待ち合わせは?」「ラグランジュポイントで!」みたいな(←ほんとにわかってない…)。

     ○はやぶさの設計の話
     日本の技術の粋を集めた最終兵器!なのかと思えば、さにあらず。「妥協に妥協を重ねた」とのこと。盛り込みたかった装置などあったそうなのですが、「軽量化」で断念したとか。

     しかし、それが良い方に働いたのが、推進剤が漏れて噴出したせいで姿勢の制御ができず、はやぶさがめちゃくちゃにぐるぐる回りだし、太陽電池パネルが太陽の方向からそれ、電池切れで通信が途絶えたときのこと。はやぶさのそのシンプルな構造ゆえ、いつかはアンテナを軸に姿勢が固まって太陽で充電できるようになるだろうとの予測ができたそうです。回転した独楽が斜めに着地してもまっすぐ自立するように。

     ○プレッシャー
     小惑星イトカワにたどり着くまではプレッシャーだったそうです。イトカワにたどり着いて本当にホッとしたと。「これで税金の無駄遣いと言われずに済むと思った」との言葉が印象的でした。成果を求められるのはサラリーマンと変わらないんですねー。

     で、イトカワに到着したとたん、世界初だってんで、パーティでは地形に片っ端からプロジェクトチームでニックネームをつけまくり。みんなでイトカワの粘土細工に没頭したとか(笑)

     プロジェクターには優勝作品の粘土細工が大写しになって、思わず笑ってしまいました。ラッコのおなかの上にはやぶさが乗っているんですよー(下のがそうです)。いやー、川口先生、話の緩急つけるのうまいわ。
    イトカワラッコ 

     ○ミューゼスの海
     たどりついてみて、はじめて形がわかった小惑星イトカワ。はやぶさプロジェクトチームは、その地形に好きに名前をつけられるわけです。そこでイトカワのくびれたあたり、比較的平らな部分を「ミューゼスの海」と名づけました。はやぶさの着陸地点として選ばれた大事な場所です。

     しかし、正式に天文台に申請したところ「こんな小さな惑星に、海があるわけないだろー!」と却下(wikiによれば、月の表面の「海」は中から染み出た溶岩でクレーターが埋まったところだそうなので、それでかな?)。

     そこで、はやぶさチームはこれならどうだと「MUSES-C Ragio(ミューゼスシー領域)」という名前を提出、これが正式名称となりました。これは「C=sea(海)」というわけで、駄洒落。はじめのニュアンスを残したわけです。

     ○イトカワへの着陸
     ミューゼスの海は直径40mくらいしかないところで、そこにたどりつくのはとてつもなく難しいのだそうです。なにせ、地球からはやぶさになにか命令するにしても、答えが返ってくるまで30分もかかるような遠い場所です。そこで毎秒数センチの操作をしなければならないというのですから。

     川口氏は力強く「これは日本独自のノウハウです。ほかのところが同じことをやろうとしても、この段階でつまづくでしょう。」と話されてました。

     また、はやぶさがイトカワから離れたときに、推進剤が漏れたトラブルについても「着陸できたからこそ、故障したのです」と、けして後ろ向きに捉えていないそうです。

     そもそもはやぶさは遠くへ旅するためにぎりぎりまで軽量化が図られており、つまりは、そんなに丈夫なものではないわけです。大きな岩にでもぶつかれば再起不能な壊れ方をするでしょう。実際は、なんとか平らな場所に到着できたから、満身創痍ながらも地球まで帰り着いて目的を達成できた、ということですね。


    <またもや長くなってしまったので、後編に続きます。>

    つづく

    該当者氏の補足はコメントにて↓

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    Posted by ゆげ1号 on  | 3 comments  0 trackback

    3 Comments

    該当者 says...""
    ・NASAの横取り?と
    NASAが小惑星への併走計画の横取り?についてはこちらのページにもそのときの心境などが書いてあります。
    毎日新聞 時代を駆ける:川口淳一郎
    http://mainichi.jp/select/opinion/kakeru/news/20100703ddm012070111000c.html
    その後NASAをPJに巻き込んで一蓮托生とするところが一介の科学者ではないというところでしょうか。
    ちなみにこの辺の詳細は「はやぶさの大冒険」に書いてあります。

    ・イオンエンジン
    川口教授の話ではないですが、よく4つのうち3つしかイオンエンジンが点火?(電気推進の場合はなんていえばいいんでしょうか?)していない図が載っていますが、こちらは元々電力量の関係で3つしか使わないず1つは予備としていました。

    ・ラグランジュポイント
    ガンダムを思い出してしまいました。川口教授が提示していたのはL2だったと思うのですが、太陽-地球、地球-月のどっちだったかが忘れてしまいましたが、過去のセミナーのタイトルが”深宇宙港”となっていますが、地球-月の関係でのL2を予定しているのでしょうか。

    ・プレッシャー
    このセミナーの場ではなかったですが、別の場でTCM時のプレッシャーが回収組の方から語られました。それはまた後々でてくるでしょう、と振ってみます。(^^;

    ・イトカワへの接近と着陸
    イトカワへの接近は、距離は電波の時間でわかる(ここなへんはアカツキ君がtwitterで説明してくれています!)けど方向についてはスター・トラッカーなどの画像処理で方向を決めていたとのこと。
    で、接近できてからはこれまたレーザーなどの距離測定とターゲットマーカーをつかった画像処理・判断を自動制御して近づいていくという文字通り”離れ業”を駆使しタッチダウンしてます。
    この画像処理・判断の技術はそうそう他の国では実現できないのではないんでしょう。

    と、今回はここまでで。

    そうそう天文台マダム様のURLがまちがってますよ~。
    http://madam.atmark.gr.jp/hayabusa2010.htm
    2010.08.07 22:28 | URL | #195Lvy4Y [edit]
    該当者 says..."キセノンガスについて"
    先のコメントでご紹介した「はやぶさの大冒険」を読み終えたのですが、そこでイオンエンジンの燃料となるキセノンガスの充填時の話を國中教授がされているのですが、イトカワへの往復には40kgのキセノンガスがあれば十分という計算だったのですが、川口教授が「もっと入れと!もっと入れろ!」という指示もあり26kgを追加(計66kg)で充填したそうです。
    これはロケットの余力があるから積めるだけ積めということだったのですが、このことが結果的に通信途絶から回復した時の姿勢制御(回転をさせ続ける)で使った”キセノンガスの生ガス噴射”に役だったというところに”こんなこともあろうかと”というあのキーワードが浮かんできました。
    ちなみにこのとき使った生ガス噴射は9kgに及んだそうです。で、帰還時に残っていたのが20kgとのことです。40kgで弁を閉めてしまったいたら帰ってこれなかったということですね。
    2010.08.07 23:39 | URL | #195Lvy4Y [edit]
    ゆげ2号 says..."補足&コメントありがとうございます"
    天文台マダム様のURLはさっそく訂正しました。

    >・NASAの横取り?と
     いい記事ですねー。アメリカって、相手が未熟と見ると優しく配慮してくれる(優越感の裏返し)けれども、相手が力をつけてきたと見るや一気につぶしにかかるんですよね。そこで、当時はNASAでも不可能だったサンプルリターンの”ふかし”を入れる、川口氏のしたたかさ。素敵です。

    >・イオンエンジン
     そう!ずっと、「この時点でもう故障してたんだー」と思ってました。

    >・プレッシャー
     もちろん書きますとも!当シリーズのもうひとつの山場はそこですから!まあでも、全部聞き取れてはいないと思うので、また補足をよろしくです。
    2010.08.07 23:46 | URL | #PtTZI1rk [edit]

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