銀輪の覇者
書評 by ゆげ2号
銀輪の覇者(上下) 斎藤純 ハヤカワ文庫
先に結論を。おすすめです!元々自転車関係の本をチェックしているゆげ1号が面白いと聞いて購入したものですが、自転車に特に思い入れがなくてもおもしろく読めるはずです。自転車好きなら更におすすめ!私は輪行中の電車の中で読んだのですが、気持ちがぐぉーっと盛り上がりましたよ。「輪行中に何読んだらいいかなー」と悩んでいるそこのあなた!これ読んどけ!以下、あんまりネタバレしないように感想を書いていこうと思いますが、できたら予備知識無しに読んでいただきたい本です。
時は昭和9年。本州を自転車で縦断しようという前代未聞の自転車レース『大日本サイクルレース』が開催されようとしているところから物語は始まります。ツール・ド・フランスの第一回が1903年、昭和9年といえば1934年。ということは、フランスに遅れること31年目にしてようやくツール・ド・ジャパンとでも言うべき自転車のプロロードレースが行われるって話なのかなーと思ったら、参加する自転車は『無改造の実用自転車』であることが条件。
ちなみに実用自転車というのは、競技用のロードレーサーとは異なり、重い荷物が積める様に頑丈に出来ている自転車で、ママチャリよりもっと無骨な代物です。昔はこれで米一俵(約60kg)を運んでいたっていうんですからすごいですねー。現在では築地くらいでしか現物は見られなくなりました。

クリックすると大きくなります。(『築地市場で朝食を』より)
「ロードレーサーじゃないんだー。なんかショボイな~。」と失礼ながら思ってしまったのですが、当時の日本は都市部ならいざ知らず、まだまだ未舗装の道路が多かったので実用車じゃないと走れないんですね。そもそも、競技用の自転車なんて金持ちのボンボンしか持ってない時代の話ですけど。
また、破格の賞金目当てにペース配分もレース運びのイロハも知らないド素人が多数参加。その服装も資金力のあるチーム参加選手はともかく、個人出場の選手はニッカーボッカーだったりランニングシャツだったりステテコだったり(笑)てんでんばらばら。案の定、スタート直後に落車事故がおこります。一日百キロを走るレースなのにどうなるんだかって感じですね。
その上、参加者の中身も曲者ぞろい。みすぼらしい服装ながら、巧みにレースを支配するゴーグルの男『響木』を筆頭に、身分を隠している者、秘密を持つ者、賞金以外の目的でレースに参加している者など怪しい人物がわんさかいるし、海外からチーム参加しているドイツチームもなにかたくらみがある様子。
怪しいといえば参加者ばかりではありません。そもそもこの大日本サイクルレースの大会委員長、山川もいかがわしい噂に彩られた人物で、その素性は新聞記者もいまだつかめないような男。大会周辺では、オリンピック出場を目指して自転車競技界のアマチュア化をすすめる帝都輪士会が、プロレースである大日本サイクルレースを妨害しようと圧力をかけてくるし、レースそのものが無事に催されるのかまで危うい雰囲気なのです。
こうして、持てる者と持たざる者、野心を持つ者と邪魔する者、追うものと追われるもの…レースに関わる各人がそれぞれの思惑を胸に交差する『大日本サイクルレース』が平穏に進められるわけもなく、さまざまなトラブルや衝突が起こります。しかし、レースが重ねられていくうちに昨日の敵が今日は味方となり、今日の味方が明日は敵となり、バラバラに配置されたかのように見えた線がひとつに収束されていくラストは爽快です。
というわけで、読んでくれ!ゆげ1号!そして該当者氏!
なんなら貸すから!
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